1990年代は、日本のアニメ史において「黄金期」とも称される非常に重要な10年間です。
セル画による手描きアニメーションの技術が円熟期を迎えた一方で、後半にはCG技術が導入され始めました。また、夕方の時間帯に大人向けの深いテーマを扱う作品が登場するなど、表現の幅が一気に広がった時代でもあります。さらに、現在のように世界中で日本のアニメが愛される基盤(ジャパニメーション現象)が作られたのもこの時期です。
今回は、1990年代を彩った大ヒットアニメをいくつかのジャンルに分けて詳しく解説します。
1. 社会現象を巻き起こした「世紀末の覇者」
90年代を語る上で、アニメの枠を超えて日本社会全体に大きな影響を与えた2つのメガヒット作は外せません。
『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年〜)

1990年代後半、日本中に謎解きブームと深い考察の渦を巻き起こしたSFロボットアニメです。
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特徴: 従来の「正義の味方がロボットに乗って敵を倒す」という爽快なストーリーとは一線を画し、14歳の少年少女たちのリアルな心理葛藤や、内面のドロドロとした孤独、宗教的・哲学的なシンボリズムが散りばめられた難解なシナリオが特徴です。
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影響: 本作のヒットにより、深夜アニメという枠組みの原型が作られ、大人向けのアニメカルチャーが完全に定着しました。劇中の音楽や「ツンデレ」「クーデレ」といったキャラクター属性(綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレーなど)は、その後のアニメ界のスタンダードとなりました。
『美少女戦士セーラームーン』(1992年〜)

「月に代わってお仕置きよ!」の決め台詞で知られる、女児向け戦隊ものの金字塔です。
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特徴: それまでの「魔法少女」といえば、1人の女の子が可愛い衣装に変身して人助けをするものが主流でした。しかし本作は、5人の少女たちがチームを組み、それぞれの惑星の力を借りて肉体戦を繰り広げるという「少女漫画×特撮戦隊」のハイブリッドを確立しました。
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影響: 女の子だけでなく男の子、さらには大人の男性までをも巻き込む大ブームとなり、海外でも「Sailor Moon」として空前の大ヒット。世界中に日本アニメのファンを増やす先駆者となりました。
2. 『週刊少年ジャンプ』原作の黄金期
90年代は、雑誌『週刊少年ジャンプ』の発行部数が史上最高の653万部を記録した時期であり、アニメ化された作品もことごとく国民的ヒットとなりました。
『SLAM DUNK(スラムダンク)』(1993年〜)

不良少年・桜木花道がバスケットボール部に入部し、才能を開花させていくスポーツアニメの最高峰です。
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特徴: リアルな試合描写、キャラクターたちの泥臭い努力、そして「あきらめたらそこで試合終了ですよ」といった胸に刺さる名言の数々が、当時の若者の心を掴みました。
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影響: アニメの放送開始とともに、日本全国の学校でバスケ部の入部希望者が急増するなど、現実のスポーツ界にも多大な影響を与えました。
『幽☆遊☆白書』(1992年〜)

交通事故で死んでしまった不良少年・浦飯幽助が、霊界探偵として蘇り、仲間と共に妖怪たちと戦うバトルアクションです。
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特徴: 「暗黒武術会編」に代表される熱いトーナメントバトルや、蔵馬や飛影といった影のある魅力的なライバルキャラクターたちが、女性ファンからも絶大な支持を集めました。
『DRAGON BALL Z(ドラゴンボールZ)』(1989年〜1996年)
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80年代から続くシリーズですが、90年代はまさに「サイヤ人編」から「魔人ブウ編」にいたる、最もバトルが過激化し世界中で人気が爆発した時期にあたります。戦闘力という概念の導入や、派手な気功波の応酬は、世界のバトルアニメの教科書となりました。
3. 世界を魅了した「スタイリッシュ」な名作たち
90年代後半になると、ターゲット層を少し高めに設定した、音楽や映像センスが抜群に尖った作品が登場します。
『カウボーイビバップ』(1998年)

2071年の宇宙を舞台に、宇宙船「ビバップ号」で旅をする賞金稼ぎ(カウボーイ)たちの活躍を描いたSFハードボイルド作品です。
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特徴: 菅野よう子氏が手がける本格的なジャズやブルースの音楽に乗せて、映画さながらの洗練されたセリフ回しと、息をのむような美しい格闘アクションが展開されます。
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影響: 日本国内のみならず、アメリカをはじめとする海外のクリエイターやアニメファンから「伝説の作品」として現在も神格化されています。
『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』(1996年〜)

明治時代を舞台に、かつて「人斬り抜刀斎」として恐れられた主人公・緋村剣心が、流浪人として「不殺(ころさず)の誓い」を掲げて人々を守る時代劇アクションです。歴史物としての重厚感と、アニメらしい華やかな技の演出が絶妙に融合していました。
4. 時代を先取りしたマルチメディア展開
『ポケットモンスター』(1997年〜)

ゲームソフトの発売から始まった本作は、1997年にアニメの放送がスタート。主人公・サトシとピカチュウの旅は、瞬く間に世界中の子どもたちを虜にしました。
現在まで続く世界最大のキャラクターコンテンツへと成長する、その全ての爆発力がこの90年代に凝縮されていました。
5. まとめ
1990年代のアニメは、ただエンターテインメントとして消費されるだけでなく、「大人の鑑賞に耐えうる芸術・文化」としての地位を築き上げた時代でした。
手描きセル画特有の「画面の密度の濃さ」や「職人技」が極限に達していた時期でもあり、デジタル移行前の独特の温かみと迫力が、今なお世界中のアニメファンを惹きつけてやまない理由となっています。


