京極夏彦さんの小説**『冥談(めいだん)』**は、2010年にメディアファクトリーから刊行された、生と死のあわいを描いた短編集です(文庫版は2013年にKADOKAWAから刊行)。
この作品は、日常の中にふいに現れる「異形のモノ」の気配や、この世とあの世の境界線が曖昧になるような、ほの暗く幻想的な物語が8編収録されています。
物語のあらすじと特徴
『冥談』に収録されている物語は、明確な「怪談」というよりも、読者の背筋にひんやりとした感覚を走らせるような、独特の雰囲気が特徴です。
代表的な収録作に「庭のある家」があります。この話では、友人に頼まれて留守番をすることになった「僕」が、襖の向こうに横たわる友人の妹の死体とともに過ごす、奇妙な時間が描かれます。しかし、その妹は、まるで生きているかのように「僕」に語りかけてくるのです。
その他の収録作も、以下のようなテーマで、日常のすぐ隣にある非日常を描いています。
- 「冬」: 懐かしくも恐ろしい幼き日の記憶。
- 「凬の橋」: 死した身内の遺志を知るという奇妙な橋の物語。
- 「遠野物語より」: 遠野物語を京極夏彦さん流に再構築したような、異境の譚。
- 「柿」: 柿の木にまつわる悪しき記憶が蘇る話。
- 「空き地のおんな」: 恋人と喧嘩した帰りに出くわした、空き地にまつわる不気味な話。
- 「予感」: 家について述懐する中で感じる、不穏な予感。
- 「先輩の話」: 過ぎた昔が幽霊になるという、切なくも温かい物語。
京極夏彦さんらしい、回りくどいながらも美しい文章で、ストレートな恐怖ではなく、じわじわと心に染み入るような不気味さや不安、そしてどこか切ない読後感をもたらします。
こんな方におすすめ
- 京極夏彦さんの独特な世界観が好きな方
- 明確なオチや説明がない、曖昧で幻想的な物語に惹かれる方
- 日常に潜む「異界」の気配を感じたい方
- 「幽談」シリーズなど、京極夏彦さんの怪談・幻想文学に興味がある方
『冥談』は、京極夏彦さんの作品の中でも、特に「生と死のあわい」や「日常に浸食する非日常」といったテーマを深く掘り下げた一冊と言えるでしょう。