重粒子線治療装置は、がん治療に用いられる放射線治療装置の一種です。炭素イオン(重粒子)を加速器で光速の約70%まで加速させ、そのビームを精密に制御してがん病巣に照射し、がん細胞を破壊します。
仕組みと特徴
重粒子線治療装置は、主に以下のシステムで構成されています。
- イオン源: 炭素の原子から電子を剥ぎ取り、炭素イオン(重粒子)を生成します。
- 加速器: 生成した炭素イオンを、シンクロトロンなどの加速器で光速に近い速度まで加速します。
- ビーム輸送系: 加速されたビームを治療室まで導きます。
- 照射系: ビームをがん病巣に正確に照射します。
重粒子線は、体内の特定の深さでエネルギーを放出する特性(ブラッグピーク)を持っています。これにより、体の表面近くでは線量を抑え、がん病巣で最大のダメージを与え、その先の正常な組織への影響を最小限に抑えることができます。この高い線量集中性が、重粒子線治療の最大の利点です。
治療のメリット・デメリット
メリット
- 高い治療効果: がん細胞への殺傷力が強く、従来の放射線治療では効果が期待しにくかった難治がんにも有効です。
- 副作用の軽減: ブラッグピークの特性により、がん周囲の正常組織へのダメージが少ないため、副作用が軽減されます。
- 短期間での治療: 照射回数が少なく、短い期間で治療が完了することが多いです。
- 低侵襲: 手術が不要で、患者の身体的な負担が少ないです。
デメリット
- 高コスト: 装置の製造・維持に莫大な費用がかかるため、治療費も高額になりがちです。ただし、一部のがんには公的医療保険が適用されます。
- 治療施設の少なさ: 装置が巨大で高価なため、日本国内でも限られた施設でしか治療を受けられません。
- すべての固形がんに適用されるわけではない: 治療の対象となるがんの種類や部位には一定の条件があります。
日本国内の主な製造メーカーと施設
主な製造メーカー
- 東芝エネルギーシステムズ: 医療従事者向けの情報を中心に提供しています。
- 日立製作所(日立ハイテク): 陽子線と重粒子線の両方を手掛けており、ハイブリッドシステムも提供しています。
主な治療施設
- 量子科学技術研究開発機構 QST病院(千葉県)
- 群馬大学重粒子線医学センター(群馬県)
- 神奈川県立がんセンター(神奈川県)
- 大阪重粒子線センター(大阪府)
- 兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県)
- 九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀県)
- 山形大学医学部 東日本重粒子センター(山形県)