1. 極端すぎる世界:灼熱と極寒の共存
水星を語る上で欠かせないのが、その極端な温度差です。
太陽に最も近いため、昼間の表面温度は約430℃に達します。これは鉛をも溶かすほどの熱さです。しかし、水星には大気がほとんど存在しません。大気は熱を保持する「毛布」の役割を果たしますが、それがない水星では、太陽が沈んだ瞬間に熱が宇宙空間へ逃げてしまいます。
その結果、夜の温度はマイナス170℃まで急降下します。昼夜の温度差はなんと600℃。太陽系でこれほど激しい温度変化を持つ惑星は他にありません。
2. 奇妙な時間の流れ:1日が1年より長い?
地球に住む私たちにとって、「1日(自転)」は24時間、「1年(公転)」は365日という感覚が当たり前です。しかし、水星ではこの常識が通用しません。
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公転周期(1年): 約88日
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自転周期: 約59日
これだけ見ると1年の方が長いように思えますが、水星の自転と公転が複雑に同期しているため、「日の出から次の日の出まで(1太陽日)」を基準にすると、なんと約176日もかかります。つまり、水星の1日は水星の2年分に相当するという、まるで魔法のような時間の流れが存在しているのです。
もしあなたが水星に立っていたら、太陽は空を非常にゆっくりと進み、時には逆行するように見え、再び昇ってくるという奇妙な動きを観察することになるでしょう。
3. 「鉄の惑星」としての正体
水星の見た目は、クレーターだらけで月によく似ています。しかし、その中身は全く別物です。水星は非常に密度が高く、その体積の**約60%以上が「巨大な鉄の核(コア)」でできていると考えられています。地球の核が体積の約17%であることを考えると、水星がいかに異質な存在かがわかります。
なぜこれほど巨大な核を持っているのかについては、未だに天文学者の間で議論が続いています。
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かつて巨大な天体が衝突し、外側の軽い岩石層が吹き飛ばされた。
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太陽が形成される初期の猛烈な熱で、岩石成分が蒸発してしまった。
このような仮説が立てられていますが、水星はまさに「宇宙を漂う巨大な鉄の玉」と言っても過言ではありません。
4. 氷が存在する? 驚きの発見
灼熱の世界であるはずの水星ですが、実は「氷」が存在することが確認されています。
「400℃を超える惑星に氷?」と不思議に思うかもしれません。その秘密は、北極と南極にある深いクレーターの底にあります。水星の自転軸は公転面に対してほぼ垂直であるため、クレーターの深い場所には数億年もの間、一度も太陽光が当たらない「永久影」が存在します。
探査機「メッセンジャー」の観測により、この永久影の中に水由来の氷が堆積していることが判明しました。太陽に最も近い灼熱の星に、宇宙の冷たさが封じ込められている。このコントラストこそが、水星の持つ最大の魅力の一つです。
5. 日本の技術も貢献! 探査プロジェクト「ベピコロンボ」
現在、水星に向かっている最新の探査プロジェクトが「ベピコロンボ(BepiColombo)」です。これは国際宇宙探査局(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)による共同プロジェクト。
2018年に打ち上げられたこの探査機には、日本が開発した水星磁気圏探査機「みお(MIO)」が搭載されています。水星は地球以外で唯一、固有の磁場を持つ岩石惑星であり、その謎を解明することが期待されています。
ベピコロンボは2025年に水星の周回軌道に投入される予定です。今後数年以内に、私たちがまだ知らない水星の真実が、日本の技術によって解き明かされる日が来るでしょう。


