深刻化する「広島人口流出問題」の現状と対策
広島県の人口流出問題は、近年「転出超過(入る人より出る人が多い状態)が数年連続で全国ワースト」という、極めて深刻な状況にあります。
2026年現在の視点から、この問題の現状の分析と現在取り組まれている対策を整理して解説します。
1. 深刻な現状:なぜ「ワースト1位」が続くのか
広島県の転出超過(流出が流入を上回る状態)は、2021年から3年連続で全国ワーストを記録しました。かつては中四国地方の「吸い上げの拠点」として機能していましたが、その構造が崩れています。
① 「22歳の壁」と産業構造のミスマッチ
最も深刻なのは20代前半の流出です。広島県には製造業(自動車、造船、鉄鋼など)の力強い基盤がありますが、現代の大学生が希望する「IT・情報通信」「専門サービス業」「広告・クリエイティブ」といった職種が東京圏に集中しています。 就職を機に広島を離れる若者は、単に仕事がないからではなく、**「自分のやりたい職種が広島には少ない」**という選択肢の欠如から流出しています。
② 「L字型」流出とジェンダーギャップ
統計上、広島県は男性よりも若い女性の流出が先行して多い傾向にあります。これは「L字型」流出と呼ばれ、進学や就職で一度出た女性が戻ってこないことを意味します。
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企業の保守的な文化: 依然として残る「男性中心」の企業風土や、管理職の女性比率の低さ。
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育児負担の偏り: 都市部に比べ、地方では「家事・育児は女性」という無意識のバイアスが強く、キャリア形成と生活の両立を望む層から敬遠される要因となっています。
③ 隣接県・競合都市とのパワーバランスの変化
西の福岡市が急速なIT化と都市開発(天神ビッグバン等)で「若者に選ばれる街」としてのブランドを確立した一方、東の関西圏も万博を機に求心力を高めています。広島市はこれら強力なハブ都市に挟まれ、中四国の拠点としての地位が相対的に低下しています。
2. 現在取り組まれている具体的・戦略的対策
県や市は、従来の「移住を呼びかける」だけの広報から、社会構造そのものを変える「構造改革」へと舵を切っています。
① 産業のDX化と「ユニコーン10」プロジェクト
若者が魅力に感じる雇用を作るため、県は「ひろしまユニコーン10」を掲げています。これは、広島から時価総額1,000億円を超えるような企業(ユニコーン企業)を10年で10社創出することを目指すものです。
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スタートアップ支援: 広島市中心部に起業家が集まる拠点「Camps」などを設置し、ITや先端技術を持つ企業の育成・誘致を加速させています。
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既存製造業の変革: マツダなどの大手メーカーと連携し、CASE(自動運転・電動化)への対応を支援することで、製造業を「最先端のテクノロジー産業」へとアップデートしています。
② ジェンダーギャップ解消への直接介入
広島県は「ジェンダーギャップ解消」を県政の最優先課題の一つに置いています。
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「共育て」の推進: 男性の育児休業取得率を劇的に向上させるための企業向けコンサルティングや、県知事自らが旗振り役となる啓発活動。
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女性のスキルアップ支援: 育休中や離職中の女性が、データサイエンスやWebデザインなどの高度なスキルを習得し、高年収の職に再就職できる仕組み(リスキリング)を無償に近い形で提供しています。
③ 教育の魅力化(県内大学の改革)
「大学で県外に出る=そのまま戻らない」という連鎖を断つため、大学教育の改革が進んでいます。
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叡啓大学(えいけいだいがく)の設置: 2021年に開学した県立の専門職大学で、全授業が英語ベース、課題解決型学習(PBL)を中心とするなど、既存の地方大学にはなかった「尖った教育」で全国から学生を集めています。
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地元就職率の向上: 県内企業と大学が連携し、低学年次からの長期インターンシップを義務化する動きが広がっています。
④ デジタルを活用した「関係人口」の創出
単なる移住者だけでなく、広島に関心を持つ「外の人」を増やす戦略です。
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「HIROBIRO.」プロジェクト: 移住希望者への伴走支援を強化し、単なる空き家紹介にとどまらず、地域コミュニティへの橋渡しや起業支援をワンストップで行っています。
3. 今後の課題:2026年以降の焦点
対策は講じられていますが、人口減少のスピードは依然として速いのが現実です。今後の焦点は以下の点に集約されます。
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賃金格差の是正: 東京との賃金差がある限り、経済合理性で若者は流出します。企業がいかに収益性を高め、東京並みの給与を提示できるか。
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公共交通網の再編: 広島市郊外や中山間部では「足」の確保が困難になっています。自動運転バスやMaaS(移動のサービス化)の実装が、生活の質を維持する鍵となります。
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多様性を受け入れる土壌: 外国人労働者や県外からの移住者が、保守的な地域社会に馴染めるような「開かれたコミュニティ」への変容。
また広島市に焦点を当てた課題対策として
物理的な「都市の磁力」強化:100年に一度の再開発
広島駅周辺と紙屋町・八丁堀エリア(都心部)の二つの核を強化し、**「広島に住み、働くことのステータスと利便性」**を劇的に高めています。
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広島駅ビル「minamoa(ミナモア)」と路面電車の駅前大橋ルート: 2025年に開業した新駅ビルは、単なる商業施設ではなく、路面電車がビル2階に直接乗り入れる世界的に見ても珍しい構造です。これにより、広島駅から都心部へのアクセスが劇的に改善され、駅周辺には高層マンションや高度なオフィスビルが次々と完成し、職住近接を求める現役世代を惹きつけています。
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サッカースタジアムを核とした「中央公園」の変貌: 2024年に開業した「エディオンピースウイング広島」を核に、公園全体が年間を通じて人が集まるエリアへ変貌しました。試合日以外も飲食店や芝生広場で若者や家族連れが過ごせる環境を作り、**「若者が誇れる街の象徴」**として、都市のブランド力を引き上げています。
まとめ:2026年、広島市が見据えるもの
広島市の対策の根底にあるのは、**「中四国の拠点としてのプライドを取り戻す」**という強い意志です。
これまでは「東京の劣化コピー」を作ろうとしていた部分もありましたが、現在は「瀬戸内の美しい景観、プロスポーツ、食、そして最先端の仕事」が共存する、独自の都市モデルを構築しようとしています。


