基礎:核分裂の仕組みとエネルギー源
原子力発電は、化石燃料の代わりにウラン235を燃料とし、その原子核が分裂する(核分裂)時に発生する熱エネルギーを利用して蒸気を作り、タービンを回して発電します。
核分裂のプロセスは以下の通りです。
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中性子の吸収: ウラン235の原子核に中性子をぶつける。
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熱の発生: 原子核が分裂し、別の原子核とともに大きな熱エネルギーが発生する。
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連鎖反応: 分裂時に放出された新たな中性子が、さらに別のウラン原子核にぶつかることで、反応が連続する(連鎖反応)。
この連鎖反応を制御棒で適切にコントロールし、安定して熱を取り出すのが原子炉の役割です。
🏭 原子力発電所の構造システム
日本の主流である軽水炉(減速材と冷却材に水を使う原子炉)は、熱を取り出す原子炉系と、電気を発生させる発電系から構成されます。
1. 原子炉系の主要な構成要素
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燃料集合体: ウランペレットを被覆管に密封し、束ねたもの。
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減速材・冷却材(軽水): 中性子の速度を落とし(減速)、核分裂の熱を取り出す(冷却)役割を持つ。
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制御棒: 中性子を吸収することで、核分裂反応を調節し、原子炉の出力を制御する。
2. 軽水炉の主なタイプ
軽水炉には、**沸騰水型炉(BWR)と加圧水型炉(PWR)**の2種類があります。
| タイプ | 沸騰水型炉 (BWR) | 加圧水型炉 (PWR) |
| 蒸気生成 | 原子炉内で直接水を沸騰させる。 | **蒸気発生器(熱交換器)**で間接的に蒸気を作る。 |
| 冷却材の系統 | 単一(一次系のみ) | 二重(一次系と二次系が分離) |
| タービン側 | わずかに放射能を持つ蒸気が通る。 | 放射能のない二次系蒸気が通る。 |
🛡️ 非常時の安全対策と多重防護
原子力発電所の安全は、放射性物質が外部に漏れないようにする**多重防護(Defense-in-Depth)**の思想に基づいています。

1. 多重防護の「5つの物理的な壁」

放射性物質を閉じ込めるために、以下の5つの物理的障壁が設けられています。
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燃料ペレット
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燃料被覆管
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原子炉圧力容器
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原子炉格納容器 (PCV)
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原子炉建屋(コンクリート遮蔽壁)
2. 非常時の安全対策の三原則
異常事態が発生した際に、炉心を安定させるために最優先される行動指針は以下の3つです。
| 原則 | 目的 | 具体的な対策 |
| 1. 止める 🛑 | 核分裂の連鎖反応を直ちに停止する。 | 制御棒の緊急挿入(スクラム)。 |
| 2. 冷やす 💧 | 核分裂停止後の崩壊熱を除去する。 | 非常用炉心冷却装置 (ECCS)や可搬型注水設備による冷却水の注入。 |
| 3. 閉じ込める 🛡️ | 放射性物質を外部環境に漏らさない。 | **原子炉格納容器 (PCV)**による密封、フィルタベントによる圧力抑制。 |
3. 福島事故後の強化対策
大規模な自然災害などで常設設備が機能しないシビアアクシデントに備え、以下の対策が強化されています。
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電源の多様化: 浸水リスクの少ない高台への可搬型電源車の分散配置。
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水源の確保: 海水だけでなく、淡水貯水池などからの冷却水供給源の多様化。
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特定重大事故等対処施設: 遠隔操作で主要な安全機能を維持するための拠点整備。
これらの対策により、万が一の場合でも事故の影響を最小限に抑え、周辺住民の安全を確保するための体制が整備されています。


