🎨 日本における色名の歴史
1. 古代の「基本四色」と感覚
日本で最も古い色名は、古代から使われてきた以下の四色です。これらは単なる色相(色合い)を示すだけでなく、明暗や感覚を表す言葉でもありました。
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アカ(赤): 「アケ(明ける)」と同源で、夜が明けて明るくなるという意味から転用された説が有力です。
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クロ(黒): 「ク(暮れる)」「クラ(暗い)」と同源で、日が暮れて暗くなるという意味から転用されました。
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アオ(青): 古くは「ハッキリしない」という意味を持ち、「アヰ(藍)」と同源で染料名とも関係します。緑色なども「アオ」と呼ぶことがあります(例:青信号、青葉)。
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シロ(白): 「シル(顕し)」(はっきりしている様)と同源で、明るい様を表します。
このように、古代の色名は特定の誰かが決めたというより、生活の中で光や暗闇、はっきりとした状態を表現する言葉から自然発生的に生まれています。
2. 律令時代と「位階制度」
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西暦603年の冠位十二階(聖徳太子の時代)に始まり、服の色によって身分や地位を示す**位階制度(色名制度)**が定められました。
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この制度で使われた色は、紫、青(緑)、赤、黄、白、黒の六色とされ、色は身分を表す標識となり、色名もその重要性から体系化されていきました。
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最も高貴な色とされた**「紫」**は、染料が貴重であったことから特別な色となりました。
3. 平安時代の「伝統色」と自然
平安時代になると、それまでの基本色に加えて、自然界から採れる染料や植物に由来する、雅で美しい固有の色名が次々と生まれました。
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植物由来: 茜色(あかね)、山吹色(やまぶき)、萌黄色(もえぎ)など、植物名や花の色にちなむものが多くあります。
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鉱物・宝石由来: 瑠璃色(るり)、群青色(ぐんじょう)など、貴重な素材の色に由来するものもあります。
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重ねの色目: また、襲(かさね)の色目といって、着物の裏地と表地の色の組み合わせに季節や情景を表現した名前(例:紅梅、松葉など)が付けられ、美意識を形作る重要な要素となりました。
これらの色名は、染織家や貴族、文学者たちの美的センスと生活を通じて生まれ、使われ、定着していきました。
🌍 その他の重要な命名者
特定の個人が近代の色名に大きな影響を与えた例もあります。
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山崎斌(やまざき あきら)氏(1892年〜1972年):
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日本の染織家。古くから伝わる天然染料での染色を、化学染料での染色と区別するため、**「草木染め」**という言葉を生み出し、定着させました。
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ロバート・ウィリアム・アトキンソン(イギリス人化学者):
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明治時代にお雇い外国人として来日した彼が、日本の藍染による美しい青色を称賛し、「ジャパンブルー(Japan Blue)」と名付けたことが、現在の藍色の認識に影響を与えています。
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このように、色の名前は時代、文化、技術、そして人々の生活や自然への感情によって多様に発展してきたのです。


