中性子爆弾とは?仕組みや特徴、通常の核兵器との違いをわかりやすく解説

コラム

中性子爆弾(ちゅうせいしばくだん、Neutron Bomb)は、核兵器の一種で、正式には放射線強化弾頭(ERW: Enhanced Radiation Warhead)と呼ばれます。

通常の核兵器が「巨大な爆風と熱」で都市そのものを破壊するのに対し、中性子爆弾は「建物の破壊を最小限に抑えつつ、中性子線によって生命(人員)のみを殺傷する」ことを目的として設計されました。


1. 最大の特徴

中性子爆弾の最大の特徴は、エネルギーの放出比率を意図的に変えている点です。

  • 通常の核兵器: エネルギーのほとんどが爆風と熱に変換されます。

  • 中性子爆弾: 爆風や熱を抑え、代わりに強力な中性子線を大量に放射します。

この中性子線は、厚い鋼鉄の壁(戦車の装甲など)を通り抜ける性質があるため、戦車の中にいる兵士を殺傷するのに適しているとされました。また、建物やインフラを破壊しすぎないため、「占領後にそのまま町を利用できる」という冷戦期の戦略思想に基づいて開発されました。


2. 仕組み

基本的には小型の水素爆弾と同じ構造ですが、周囲の材料に工夫があります。

  1. 核融合反応の利用: 起爆剤となる原子爆弾(核分裂)で高温を作り、重水素と三重水素の核融合を引き起こします。核融合反応は、非常にエネルギーの高い「高速中性子」を放出します。

  2. 反射材の除去: 通常の核兵器では、エネルギーを閉じ込めて爆風を強めるためにウランなどの重い金属で覆いますが、中性子爆弾では中性子が外に飛び出しやすいよう、クロムやニッケルなどの薄いケースを使用します。

  3. 残留放射能の抑制: 爆発規模が小さいため、爆発後の「死の灰(フォールアウト)」が少なく、放射能汚染が比較的早く収まるように設計されています。


3. 歴史と現状

  • 冷戦下の期待: 1970年代から80年代にかけて、ソ連の圧倒的な戦車部隊がヨーロッパに攻め込んできた際、自国の領土(建物)を壊さずに敵軍だけを止める「戦術核」として期待されました。

  • 反対運動: 「建物は守り、人だけを殺す非人道的な兵器」として世界的な批判を浴びました。

  • 現在の状況: アメリカ、フランス、ロシア、中国などが開発に成功したとされていますが、冷戦終結とともにその必要性が低下し、現在では多くの国で実戦配備からは外されています。


4. 誤解されやすい点

「建物が全く壊れない」というイメージを持たれることがありますが、それは誤解です。小型の核爆発は起きるため、爆心地付近の数平方キロメートル内の建物はやはり破壊されます。 あくまで「通常の核兵器に比べれば物理的破壊が小さい」という意味です。

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