1. 宇宙食の歴史:チューブから「食事」へ
宇宙食の歴史は、そのまま宇宙開発の歴史でもあります。
-
初期(マーキュリー計画時代): 1960年代、宇宙食は「栄養補給」が唯一の目的でした。喉に詰まらないようチューブに入れられたペーストや、一口サイズの固形食が主流で、味については二の次。宇宙飛行士たちからは「あまり美味しくない」と不評だったといいます。
-
発展期(ジェミニ・アポロ計画時代): お湯で戻して食べる「フリーズドライ食品」が登場しました。これにより、エビのカクテルやチキンと野菜の煮込みなど、メニューの幅が劇的に広がりました。
-
現代(ISS時代): 現在は15ヶ国以上の国が参加するISSにおいて、300種類以上のメニューが存在します。加圧加熱殺菌(レトルト)や自然形態食(そのまま食べられるナッツや乾燥果物)など、地上の食事に限りなく近い状態で提供されています。
2. 宇宙食に求められる「厳しい条件」
宇宙という特殊な環境で食べるため、宇宙食には非常に厳しい基準が設けられています。
-
飛び散らないこと: 無重力空間では、パン屑や液体のしずくが宙に浮いてしまいます。これらが精密機器に入り込んだり、飛行士の目や鼻に入ると危険なため、一口サイズにするか、粘り気を持たせて飛び散らない工夫がされています。
-
長期保存が可能: 常温で1.5年から2年程度の保存期間が求められます。
-
栄養バランスと精神的ケア: 閉鎖環境でストレスが溜まりやすい宇宙生活において、美味しい食事は最大の娯楽です。栄養価だけでなく、味の良さがメンタルヘルス維持に不可欠とされています。
-
強い味付け: 無重力状態では体液が頭部に移動する「フェイス・パフ」という現象が起き、味覚が鈍くなると言われています。そのため、宇宙食は地上よりも少し濃いめの味付けに調整されています。
3. 世界を席巻する「宇宙日本食」
日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)が認証している「宇宙日本食」は、日本人飛行士だけでなく、海外の飛行士からも大人気です。
現在、カレー、ラーメン、サバの味噌煮、おにぎり、羊羹、さらにはたこ焼きや唐揚げまで、多くの食品メーカーが開発に参画しています。 特に「宇宙用カレー」は、スパイシーでコクがあり、宇宙で鈍りがちな味覚を刺激するため、非常に高い人気を誇る定番メニューとなっています。
4. 未来の宇宙食:地産地消の時代へ
これまでの宇宙食は「地球から持っていくもの」でしたが、これからは「宇宙で作る」研究が進んでいます。
-
宇宙農業: 月面基地や火星探査を見据え、ISS内でのレタスやラディッシュの栽培実験が成功しています。新鮮な生野菜を宇宙で食べることは、飛行士にとって究極の贅沢です。
-
3Dフードプリンター: 材料の粉末と水を使い、その場でピザやステーキのような造形を作り出す技術も研究されています。
5. まとめ:私たちの日常にも活きる宇宙食技術
実は、宇宙食の技術は私たちの生活にも密接に関わっています。 災害時の「非常食」や、軽くて栄養価の高い「キャンプ飯」などは、宇宙食で培われたフリーズドライや長期保存の技術が応用されているのです。
最近では、科学館やオンラインショップで、実際に宇宙で食べられているものと同じ製法の食品が簡単に手に入ります。今夜は、宇宙に思いを馳せながら「宇宙の味」を体験してみてはいかがでしょうか?


